犬顔の猫のこと

ヲザワは友達の家からもらってきた猫で、何匹か生まれたうちの最後の一匹だった。つまり他に選択肢はなかったわけで、だからといって特に迷うこともなくその一匹をもらってきた。肩にのせたりしても爪を出さない、気立てのいい猫というお墨付きだった。
だが、飼い始めてしみじみと顔を見ていると、どうも子猫っぽいかわいらしさがない。極端に言うと目の形がかまぼこを逆さまにしたような形で、目の上の線が平らなのだ。猫のくりっとした瞳とはなんだか全然違う。それに三白眼っぽくて、子猫特有の愛らしさを感じない。あとおでこから鼻のあたりが長いというのか、なんだか犬とかキツネみたいな輪郭に近く感じる。猫なのに犬顔。あとなんか目に表情がないというのか、好奇心に目を輝かせるとか、怯えてにらみつけるとかそういう起伏が感じられない。こんな顔の子猫、見たことない。
特に気になったのは目の形で「この目の形なんとかならないのかな」と指で押し上げてみたりと、一時はかなり本気で考えていた。もし整形してくれるところがあったら5000円くらいまでなら出したかもしれない。
子猫の時のヲザワのブサイクな写真が確かあったと思って探したのだが小さいのしか見つからなかった。うちに来て一ヶ月くらいのころの写真だと思うのだが、実に目つきが悪くてかわいくない。「猫ならなんでもかわいい!」という猫好きの方もいるのかもしれないが、当時の私には全然かわいく思えなかった。

もらってきた当時のブログを見ると「なんだか微妙な顔だけど子猫だからかわいい」というようなことを書いていて、たぶん自分に必死で言い聞かせていたんだと思う。「このままかわいく思えなかったらどうしよう」と半ば本気で思っていたし、もちろん大きくなったからってブサイクが改善されるわけもなく逆さかまぼこ目の三白眼の犬顔で無表情の猫に育ったのだが、いつの間にかそのブサイクさも込みでかわいいと思えるようになった。ブサイクはあくまでもブサイクであり決してブサイクさがかわいいというのではないのだが「ブサイクさは大して気にならなくなった」のだ。
だが後から来たコバケンを見ていると「やはり猫のかわいさとはかくあるべきだな」と思ったりする。くりっとしたくるくると表情を変える瞳やきゅっとした猫特有の輪郭はやはり本当にかわいらしい。愛くるしさが全然違うのだ。
こういうのは人間にもあることなのかもしれず「自分の子どもが(たとえ仮にブサイクでも)『かわいい』」というのはもしかしたらこういう気持ちなのかもしれないな。「かわいく思う気持ち」なんて後からついてくるものなのかもしれない。
でも少なくとも猫に関しては、ブサイクだから「こそ」かわいいとは別に思わない。もうヲザワとブサイクは切っても切れない関係にあり、ブサイクはヲザワに含まれヲザワはブサイクに含まれているのが現実なのであり、もし突然整形手術で愛くるしくなったら「これじゃヲザワじゃない」と違和感を覚えるのは間違いないだろうが、やっぱり猫は愛くるしい方がいいなあとも思ってしまう。すいません年の瀬に身も蓋もないこと言って。いやかわいいですよヲザワ。かわいいかわいいかわいいあーかわいい(全力でヲザワをナデナデして嫌がられながら)。