「薄めない方が鮮やかな色を持っていた」かもめんたるの「不気味な」世界

今年のキングオブコントで優勝したかもめんたる。今までそれほど意識して見ていたわけではなかったのだが、一本目の、路上で言葉を売る詩人を痛烈に批判するコントが抜群に面白く、二本目もいちいち言葉のチョイスが面白くコントとしての構成も綺麗だなと印象に残っていたので、興味を持って少し調べてみることにした。
以下、ネタバレすることに少し葛藤しながら紹介してみます。

かもめんたるは、岩崎う大さんと、槙尾ユウスケさんの二人からなるコンビ。ネタはう大さんが書いているらしい。小島よしおさんも所属していたコントグループWAGEの一員だったとか、まあそういう話はWikipediaなどをご参照のこと。

まずは何よりネタを見てみましょう。と思って最初に見たのは昨年のキングオブコント決勝のネタ。このときかもめんたるは三位という成績を残している。

1本目はコンタクトレンズ屋と一風変わった客という設定。
「目がもももももーって腫れちゃって、その腫れた部分がまるでマーガリンを塗ったパンケーキのようにしっとりと脂が浮いて、死んだ魚の腹のように妖しい光をはなっていたんです」(すいませんちゃんと聞き取れなくて違ってるかも)「もういいですよそのえぐい描写!」
確かにえぐい。言葉のチョイスが気持ち悪い。こと後も不気味な言葉のオンパレードが続く。客の暴走具合もなかなかのもの。
2本目は小学校の先生と生徒。生徒の書いた作文をめぐってのやりとりがあり、これにはさほどえぐい描写はなく、どちらかといえば毒の効いたブラックなコントだったのだが「おれに見えてるのが単なる縄の切れ端か、それとも蛇か、確かめてやる」などどこか文学的な言い回しが印象に残った。コントとしての展開は見事だったと思うが、繰り返される決まり文句「お疲れ」があまりキャッチーに響かなかったのが残念。

この昨年のキングオブコント決勝前のインタビューで二人はこう語っている。

―― 正直いうと、かもめんたるさんはネタの個性が強くて、多勢向けというより「自分たちのネタを好きになってくれる人だけ好きになってくれればいい」という方向性なのだと感じていました。メジャーを狙わないというか。

槙尾 それはたぶん……そこまで行ってないです(笑)。

う大 メジャーにはなりたいと思っています。今の道が絶対にどこかに続いていると思っているし。でも10年以上やっていると思うのが、こういうのやったらウケそうだとか喜ばれそうだとかに合わせに行っても、それを得意にしている人たちには敵わないんです。器用じゃないので、自分がおもしろいと思うことをやらないとムリなんですよね。決してマニアックなことをやっているという意識ではないんですが、僕らがやっているような笑いが好きな人も世の中にはいっぱいいると思うんです。ものすごいどメジャーでありたいとは思わないけれど、メジャーの中のそういう道をさぐっていきたい。そういう意味でも、キングオブコントで大勢の人の目にふれれば、僕らのような笑いが好きな人にも届くと思っていて。

槙尾 ネタはすべてう大さんが書くんですが、僕は全面的におもしろいと思っています。今みたいに「わかる人だけわかれば〜」というようなことを聞かれることがあるんですが、僕からすると「あれ? なんでこれが一部の人にしかウケないんだろう」と思うんですよね。だから、それならばこっちから僕らのほうにお客さんを引きこんでいこうよ、という感覚なんです。合わせにいくのではなくて、「このおもしろさに気づいて!」という。

う大 マニアックだったり、アンダーグラウンドで終わるつもりはないんです。いろんな人に笑ってほしいし、その笑い声が大きな笑い声だったらなおさらうれしいし。

――今回のキングオブコントを見て、「こういう笑いもあるんだ! こういうの好きだわ〜」と思われる方も多いと思います。

槙尾 こんなことやってるヤツいたんだ!となればいいですね。

「ものすごいどメジャーでありたいとは思わないけれど、メジャーの中のそういう道をさぐっていきたい。」というう大さんの言葉。
まあ、確かにこのえぐさは万人に受け入れられるタイプの笑いではない。

「完全にやっちゃったな今回の発言な、いいんだよ『それ犯罪だよね?』どこに書いてあったんだよ、そんなんじゃないんだよ『学校で言えないよー』それはって話だ、どっかで調子にのってたんだろうな、夏越えたからってな、でそんときにあったさ、自分の中の調子に乗ってたのがさ、おごり高ぶりの花としてさ今咲いたんだよ見たよ俺は咲いた瞬間を、無意識のうちに調子乗ってたんだよお前は」
演技力の高さもあって単なる「変」とか「バカ」というより静かな「狂気」と言った方がいいような雰囲気である。特にこのう大さんの長台詞のイっちゃってる感じは圧倒的だ。こういう言葉が句読点なくあふれ出してくるような種類の笑い、私はすごく好きだが、これは「あはははは!」と屈託なく笑う種類のものではない。
(ちなみに、このエントリを書くに当たって他にもいくつか動画を見たが「砂浜店長」とか「シュガー」とか面白いのはたくさんありました。スタンディングオベーションが止まらなくなった客という設定だけで10分のロングコントを作っちゃうなんてすごい。今回は長台詞を中心に書くことにしたけど「ヒーロー」の「心の闇を光で照らしても、影はもう一方に伸びるばかり」とか「妖精」の「お前自分が妖精ってだけで価値ある存在だと思ってるだろ」とか心に残る名台詞も満載。是非チェックすることをおすすめします。DVDも見ます。)

で、2012年の三位という成績から一年、仕事がさほど増えると言うこともなく「やはり一位にならないと意味がないんだな」と二人は感じたという。ということは、う大さんの言う「こういう笑いもあるんだ!」という気づきを得た観客はまだまだ少なかったということなのだろう。

そして迎えた2013年のキングオブコント決勝。この決勝の前のインタビューの二人の言葉はこうだ。

―― 昨年のこのインタビューで「メジャーになりたいとは思っている」とおっしゃっていました。

う大 決勝に行けたことで、自分のやってたことはメジャーというか地上に続いてたんだなと自信にはなりましたね。今までは闇雲にやってた部分があったのが、僕らの軌跡にはゴールがある、メジャーな道に続いてると思えた。その支持も前より感じるようになったし、僕らに求められてることも何となくわかってきて、それがネタ作りにいい意味で作用していると思います。

槙尾 7月の単独ライブは、一般的にすごく受け入れられてた感じがしました。

う大 前よりはポップになったって言われたよね。それは(ネタを作る)僕が「僕らに求められてること」を理解したし、それに同調するようになって明確になっていってるのかもしれないですね。それが今までにはなかったことです。

―― 求められてることが伝わってくる?

う大 何でしょうね、気持ち悪いネタとか不気味なネタみたいなのをやっていいんだって免罪符を与えられたことによって、素直に表現できるようになったっていう感覚です。

―― 作るものを変えたという意識は?

う大 あんまりその意識はないです。ただ、今まで色を薄めて出してたのはよくなかったのかもしれないなって。前は「このネタは引かれるかな」と思っていたのが、今は「かもめんたるは気持ち悪いネタをやる」ことを分かってくれた人が多いからとより明確な色で不気味なことをやったら、それが意外とポップだったみたいな。薄めない方が鮮やかな色を持ってた。そういうネタが単独ライブ全体でも割合が多くなってたと思うんです。不気味だったり怖かったり不快感とかそういうのを押し出して行くのが多かったんですけど、それが笑いの量として多くなって、ポップさと感じたのかもしれない。パワーがついたから笑いやすくなった、それがポップに感じることになったのかもしれませんね。

気持ち悪さや不気味さを素直に表現することで逆にポップさを手に入れた。「薄めない方が鮮やかな色を持っていた」という2013年のネタ。私の好きな「あふれ出してくる言葉の洪水」は確実にパワーアップし、確かにポップさを手に入れていた。
まずは1本目。

言葉売りの詩人の売っている言葉の微妙さも絶妙なのだが、その詩人に金を「恵ませろー!」と叫ぶ女の
「何にも刺さってこない、かといって荒削りとかそういうものでもない、この状態が頭打ちのいちばん気持ちの悪いところでうろうろしてる、もう、ゴミにもならない自己満足の燃えかすだこんなものは!」
とまくし立てるシーンは圧巻で胸をすく。毒と狂気に心地よさが加わった。続く「何がおばさんだ人類みな同い年なんだろ?」のくだりは本当に大好き。このコントは単独ライブで非常に評判が良かったそうだが、名刺代わりの1本目には非常にいいコントだったと思う。
そして2本目。

ある男に奴隷扱いされているダメ男が会社にやってきて…という出だし。
「自分が人様をいらつかせる人間であることをしばらくの間忘れておりました。今後は再び自分が人様をいらつかせる人間であることを再確認し、あたたかいものをあたたかいと感じ、冷たいものを冷たいと感じながら慎ましく生きていきます。誠に過分なお申し付けであるとは思いますが、今しばらくお付き合いください」
不気味と言えば不気味ではあるのだが、奴隷っぷりの暴走が笑いにまできちんと発展している。
ちょっと偉そうに言うと、コントの笑いの一つには、登場人物のキャラクターの「振り切り」があると思う。ダメな人、臆病な人、偉そうな人…それぞれのキャラクターだからこそ出てくるセリフやそれに対する的確なツッコミが大きな笑いへとつながる。かもめんたるのコントは人間を描くという意味で確実に進化していた。
そしてそのダメ男がまさか…という4分間の間にドラマチックな展開を盛り込んだ見事な構成。個人的には「え、せっかく途中まで面白かったのにそんな展開?」というネタが散見されたキングオブコントだったが、かもめんたるの優勝は十分に納得のいくものだったと思う。
この優勝でかもめんたるが「メジャー」という地上に出ることはできたのか。「薄めない鮮やかな色」をこれからも保ちつつ、様々な世界を描いていって欲しいと思う。

しかし「メジャー」な世界に出るということは、コント以外の様々な露出が増えることでもある。ここでかもめんたるはどう勝負していくのか。

10月18日の「おぎやはぎのメガネびいき」にかもめんたるが出演した際、酔っ払ったオークラさんがかもめんたる
「バラエティは嘘をついてもばれる、無理をしない方がいい。自分の持ってるものを延長して出すのはいい。かもめんたるなんだからワッって芸人ぽくするんじゃなくて、真面目なんだったら真面目な方向で伸ばしていったらいい」とアドバイスしたという話をしていた。

そういえば2012年のキングオブコント決勝前のインタビューを読んでいて

槙尾 発表を待っている時、僕ら一番前に座っちゃってましたからね(笑)。

―― そうでしたね。なぜあんなど真ん前に?

槙尾 会場に入ったら、スタッフさんが「前から詰めてください!」と言っていて。僕らマジメなので、その通り前に座ったらみんな前に来なくて。結果的にめっちゃ受かる気まんまんみたいな席になっちゃいました。

とあって、そうか自分で真面目なんだって思ってるんだって印象に残っていた。アメトーークの「人見知り芸人」が成功したり、オードリー若林さんのように屈折したところのある芸人さんが、その屈折ぶりを逆にネタにしながら笑いを取っていく例もあるから、一見笑いになりにくそうな真面目な部分をうまく笑いに変えることだってきっとできるんだと思う。
とはいえネタ番組以外のバラエティでかもめんたるがどんな活躍を見せるかはまだ未知数だ。コントを磨き上げて地方でも単独公演を行えるようなコント師になって欲しいというのと、そのためにはテレビにたくさん出て知名度を上げなければならないというのと、応援する側の心理は複雑だ。きっと当人達も葛藤しているんじゃないかと思う。コントの全国ツアーを行いながらバラエティにもそれなりに露出している東京03のようなグループが増えてくれたら地方在住者にとってはとても嬉しい。

先の「おぎやはぎのメガネびいき」では、う大さんは酔っ払ったオークラさんを見ながら「この人をどうコントにしようか考えていた」とのこと。なんというコント師魂!矢作さん曰く「東京03もそういうタイプ」。オークラさんをモデルにしたかもめんたるのコントが見られるのがとても楽しみだ!

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