意味のない行為

刑事ドラマで「これから自殺する人間が○○なんてことをするものでしょうかねえ?」と敏腕刑事が言う。
だが私は、自殺する前に翌日の特売情報なんかをチェックして「あらやだ私ったらこれから自殺するつもりだって言うのに。てへっ」ということをやってしまう人は結構いるような気がする。人間って油断するとつい日常生活をいつも通りに送っちゃうんじゃないかという気がするのだ。
そして日常生活には「何となくやってしまった」としか言いようのないことが結構ある。何となく電気をつけそびれて真っ暗な部屋の中でパソコンを弄っていたり、逆に昼間なのに電気をつけて部屋に入ってしまったり、テレビをつけたままコンビニに出かけたり。かくして私は敏腕刑事を混乱に陥れるのである。ごめんなさい右京さん。
意味がない行為と言えば、猫が寝場所を定める前に敷布をカリカリひっかくあの行為である。
いったい、何をしているのだろうか。どう考えても布をくしゃくしゃにしてしまうだけで、寝心地がよくなるとも思えない。穴を掘っている感覚なのだろうか。だが猫が掘った穴に寝るなんて言う話は聞いたことがない。
コバケンがフリースの膝掛けに対してだけその行為を行う。夏の間そんな行為は見たことがなかった。膝掛けの存在が彼をそうさせているのだというのはわかるが、理由がわからない。カリカカリカリと膝掛けを引っかき回してからおもむろにその上に乗って寝る。膝掛けを人がかけていても膝の上でやってからごろんと寝そべる。意味がない行為としか言いようがない。
そういえば猫について言えば喉をゴロゴロ鳴らす行為だってメカニズムは解明されていないのだと聞いたことがある。猫にしてみたら「意味なんかないけどなんとなくやっちゃってる」のかもしれない。
考えてみたら左右にぱたぱた動くだけの猫じゃらしに熱狂して飛びつくなんていう行為も意味がわからないではないか。動物に似た動きに興奮するというのならまだわかる。しかし左右にぱたぱたなんていう動きをする生き物は私の知る限り、いない。犬のしっぽくらいのものである。あんなものに大興奮して追いかけ回すと言う行為に一体どんな意味があるというのか。生き物の生活はこのように意味のない行為に満ちあふれているのである。敏腕刑事もそこのところはよくわきまえておくべきだと思う。