「着過ぎ」という事態

「また着過ぎた」と思う。
急に寒くなった最近は特に多い。
だが、着過ぎなのだ。
外に出た瞬間に厚着し過ぎだとわかる。思ったほど風が冷たくない。
暑い。
微妙な寒風の中、汗をかく。皆私よりずっと軽装だ。
天気予報は「今日は一枚多く着込んでお出かけください」なんて無責任に言うが、そもそもが厚着し過ぎの人間もいるのだ。
しかし「今年一番の寒さ」なんて言葉を聞くとつい着る物が一枚増える。それがどのくらいの寒さなのかはちゃんと把握せずにむやみに着込むから、外出先で汗だくになる。それでも厚着がやめられないのは、特に寒がりなわけではないと思うのだが「寒い」という事態に対する異常な恐怖心があるからだ。
寒さに震えて外を歩くなんて、考えるだけで恐ろしい。
「寒かったらどうしよう」という思いが今日も私を余計に着込ませる。
最大級の厚着をしていれば間違いない真冬になってしまえば楽なのだが、寒いのは嫌だ。「もういっそ真冬になってしまえばいいのに」と思うほど私はやけくそではない。
だから私は今日も洋服を前に逡巡する。
毛糸のカーディガンは着るべきか。ダウンベストを上にプラスするべきか。マフラーは巻くべきか。
そして結局全部着込んでしまい、今日もまた「着過ぎた」と思うのだろう。冬が深まるまでこの葛藤は続きそうである。