すべて「色紙」が悪いのだ

あるお笑いライブに行ったら、抽選で出演者のサイン入り色紙が当たるというコーナーがあった。
サインが欲しくないわけじゃないのだが「色紙」というものがどうも私は気に入らない。

まず持ち帰りに困る。よほど大きいバッグを持っている人でない限り入らないでしょ。たたんで入れるわけにもいかないから折れたりしないかどうかも気を遣う。普通の紙と違って固いから、ちょっとでも曲がったら折り目がついてしまう。汚れないかも気になる。そのまま手に持って帰るのもちょっと恥ずかしい。
でもまあこの点に関してはサイン会ならそれなりの準備をして臨むことも出来る。

でも、どうにかして持って帰ったところで、どこに置いたらいいかわからない。ラーメン屋じゃないんだから壁に飾るってのもどうかと思うし、棚の上とかに飾るっていっても幅があるから大きめの花瓶くらいの場所は取るし猫が倒すし一応インテリアってものもある。申し訳ないのかもしれないが、正直飾る気はしない。

じゃあ大事にしまうかってことになるのだけど、あの色紙というものの微妙に大きすぎる感といったらない。本棚に立てようにも本棚の高さが足りないし入ったとしても今度は奥行きが足りなくて微妙にはみ出したりする。A4のファイルにも入らない。サイズ感で言うと「台所の上の棚の滅多に使われない大皿の下」辺りが収まりが良さそうだが、なんかふさわしい感じがしない。
そういうわけで、最終的な行き場所は恐らく「押し入れ」。うちならそうなります。

あと保管するための袋。ジップロックなんかが良いと思うのだが、たぶん大きいやつでも入らないだろう(手元に色紙がないから確認できませんが)。恐らく使うのは「いつか使うかも」と押し入れに突っ込んでおいた、無印かユニクロあたりの大きめのビニール袋。
ちょっとしわのついたあの白い袋に色紙を入れ、余分の袋を折りたたんで、押し入れを開け積み重なった段ボールの間に、そっと差し込み、戸を閉める。

おしまい。で、忘れる。どこに置いたかも、そして下手すると、その存在自体も。

私は一度だけ好きな有名人のサイン色紙をいただいたことがあるのだが、上記のような経緯をたどり、捨ててはいないと思うのだが、今はどこにあるのかも思い出せない。

「大好きな有名人のサイン」というお祭りヒャッホー的なアイテムにしては、あまりにも割に合わない扱いではないだろうか。割に合わない扱いをしてしまっているという罪悪感も残り、非常に後味が悪い。

繰り返すが、私は「サインなんていらん」と言っているのではない。気に入らないのは「色紙」という存在であり、本とかCDとかDVDとかにだったら喜んでサインをいただく。サインと似たジャンルのアイテムで言うと「さほど興味のないバンドの人がステージから投げたのが偶然手の中に飛び込んできたピック(複数のバンドが出演するライブだったのだ)」も、それは残念ながら思い入れ的には微妙なのだが、「サイン的アイテム」として机の引き出しの片隅に大切に保管している。
全て「色紙」が悪いのだ。あの中途半端に丈夫な厚さも、あの大きさも、正方形なのも、白いのも、縁の金色も、全てが気に入らない。

有名人のサインならまだいい。もっと困るのは送別会などでもらう「寄せ書き」だ。サイン色紙にあったお祭りヒャッホー的な要素すらあれにはない。感謝の念がないとは言わないが、なぜ色紙なのだ。便せんとか、メッセージカードじゃダメか。
書く側になったときのことも考えて欲しい。色紙にものを書くって妙な緊張感があるし、
「どこに書こう」
「どのくらいの大きさの文字で書こう」
「どのくらいの分量書こう」
「『元気でがんばってください』しか書くことないけどどうしよう」
「ほんとは『死ね』って書きたいけど」
「っていうかこいつ誰」
とか悩むことが多すぎる。罫つきの便せんにして「一人二行」とか決めたら全て解決じゃないですか。最後の3つ以外は。
それにどうせだいたいの寄せ書きってスペース余ってるじゃないですか。あんなに大きい必要ないでしょ。いや、余白があるのはお前の職場での人間関係に問題があったせいだと言われたら返す言葉もないのだが、今度は色紙にびっしり熱のこもったメッセージを書かれるようなリア充への憎しみまでふつふつとわき起こってきて、これも何が悪いって、全て「色紙」が悪いのである。

よく有名人が一般人から受けた不当な扱いとして「コースターやメモ帳にサインさせられた」という話をしているが、私はコースターやメモ帳だったら、小さいジップロックに入れて、机の引き出しにしまい、たまに取り出して眺めたりもするかもしれない。押し入れに突っ込まれたサイン色紙よりよっぽど正当な扱いではないか。有名人の人ももっと差し出されるいろんなものに快くサインしていいと思う。レシートなんかだったらパウチされてしおりとかになって、毎日大事に使われている可能性だってあるじゃないか。

いろんなものにサイン、というと今度は「サイン入りTシャツ」のことが頭に浮かび、あれは着るのか着ないのか、洗うのか洗わないのか、かけておくのかたたんでおくのか等々が気になってくるのだが、それはまた別の機会にしたい。とにかく全部「色紙」が悪いのである。