川上未映子「愛の夢とか」
- 作者: 川上未映子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/03/29
- メディア: 単行本
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物語の主人公として子どものいない専業主婦がたびたび出てくるが、そのどこか現実に足が着いていないようなふわふわとしたどこか不安な感じが全体に漂っている。
一つだけ男性が主人公の物語があるのだが、やはりどことなくふわふわとしていて、なんとなく村上春樹の小説に出てくるキャラクターを思わせた。
それはこれまで僕が慣れ親しんだふだんの眠りとはまったく関係のないべつのところからやってきて、まったくべつのものを求めているような、それはそんな眠さだった。
などの表現もどこか村上春樹っぽいと思ってしまう。
いくつか文章を書き写していて気づいたのだけど、ひらがなと漢字のバランスがとても好きだ。なんでもない言葉をひらがなで書くことのやさしさの中に、ちょっと難しめの言葉はしっかり漢字で書くのがぴりっと効いている。
柔らかさの中にしっかり芯のある感じを、文字の見た目でも表現している。人の暗部を描くような、ちょっと毒のある部分は割と漢字が多くなっていて、人が人でなくなるような現実感の希薄な部分はひらがなを多用すると言った、著者の意図的な文体の使い分け方を感じる。
こんなことをただくりかえして、それで年をとっていつまでもこんなふうにひとりきりでおんなじ場所に立ち尽くしたまま、そうやって、わたしはいつまで だって、そうやっていくのだ。
のように、「そうやって」とか「こんなふうに」等の、時にはなくても意味が通る指示語をはさんだり、
体のぜんぶで、いちごをつぶす。いちごをつぶして、いちごをつぶす。
のような繰り返しの言葉が、文章のリズムに身を任せる心地よさを感じさせて、読んでいて楽しい。
物語として起伏があってわかりやすかったのは「お花畑自身」だが「愛の夢とか」や「三月の毛糸」のような物語の途中にすとんと置いて行かれるような展開の話の方が個人的には好み。
ブクログのレビューで割と好評の「十三月怪談」は最初読んだときよくわからなかったのだが、「死後の世界は、生前の死のイメージの中にそれぞれが別々に閉じ込められる」という話なのだと思うとなんとなくぞくりとした。まさに「怪談」。