ここは退屈迎えに来て

ここは退屈迎えに来て

ここは退屈迎えに来て

特筆すべきはタイトルの秀逸さ。それぞれの物語に共通するテーマを見事に言い当てている。
私は田舎の中学から都会(と言ってもちょっと大きい近郊の地方都市だけど)の高校に進学したのだけど、進学が決まった時の全てのめんどくさいしがらみから解放されたような爽快感を思い出した。
十代のこれからなんでもできる!と言うようなテンションの高さもあり、アラフォーアラサーのくたびれた物悲しさもあり。くすぶっている人達を描いているのに意地悪な感じがしない。かといって優しく励ますというのでもない。「ま、なるようになるでしょ」的な不思議なフラットさのある目線。
各短編に共通して登場する椎名という男の子は、「桐島、部活やめるってよ」の桐島のイメージと重なる。

桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)

桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)

昔椎名に心惹かれた女の子達は、彼にかつての輝きがないことはわかりつつ、彼にとっての特別になりたい、という思いを失わない。中学高校の鮮烈な記憶って、そういう力を持っているのかもしれない。
桐島も高校を卒業して大人になったら、その頃の絶対的な輝きみたいなものは失われて、そんな彼を見て周りはちょっぴり失望しつつ、でも、彼とのつながりは失いたくなくて、いつまでも「あの時は急に部活やめるからびっくりしたよー」なんて思い出話に興じたくなるような存在になって行くのかもしれない。

読後感がいいのは各短編の配置順によるものもありそう。逆だったら全然違うことになっていた気がする。