バランス

入院期間はあと一ヶ月か二ヶ月というところ。まだまだ先は長い。
症状はすっかり収まっているのだからさっさと退院できるだろうと思ったら大間違い、薬の調整が必要なのだ。どうして外来通院で薬の調整ができないのかよくわからないのだが、とにかく主治医はそのつもりらしい。あまり先のことは考えないで、焦らず過ごすことを心がけるしかない。
焦らず過ごすには話し相手が必要だということを前回の入院で学習した。前回の私は誰とも話さずに時間を過ごした。本当は文章を書いたり手芸をして過ごしたいのだが、PCも針のたぐいも持ち込みはできない。本を読むかiPhoneで音楽やラジオを聞いたり動画を見たりするくらいしかできることがない。落語やら深夜ラジオの録音音源などはたっぷりiPhoneに詰め込んであったし、見たい動画だって読みたい本だってたくさんあるのだからそれで十分時間は潰せると思ったのだが、ひとりで集中するのには限界があった。早く退院したいという気持ちの焦りが集中を妨げる。そういう気持ちを紛らすのには人に話して共感してもらうのが一番だ。
私は思いきって誰かに話しかけて友達になってみようと思った。そうしてマリコ、ヨシオカさん、タニザキさんの座っているテーブルの空いたところに「ここ、いいですか?」と座ってみたのだった。
ヨシオカさんのことは2回目の入院の時から知っていた。服装がとにかく目立っていたのだ。全身ヒョウ柄、上下ともヒョウ柄はもちろん、アウターもインナーも髪飾りも手帳もヒョウ柄ときている。心の中で密かに「女豹さん」と呼んでいた。誰とでも気さくに話している様子も見ていたので、この人なら受け入れてくれそうだと思ってこのテーブルを選んだのだ。三人は快く私を受け入れてくれた。
いざ仲間になってみると、この3人はかなり親密なつきあいをしていて少々戸惑った。ほとんど全ての空き時間を同じテーブルで過ごし、他愛のない話から込み入った話まで何でも話す。笑いもあれば涙もある。そこまでのつきあいを求めていたわけでないので困ったことになったとおもったが、既にできあがった3人の関係の片隅においてもらうことが出来たので、案外気は楽だった。同じテーブルにいながら本を持って行って読んでいることもある。聞くともなしに話を聞いて入りたいときに入る。そういう関わりが嫌ではないかと聞いたが全くかまわないとの返事だったので、遠慮なく好きなようにさせてもらっている。
お喋りの小休止を取りながらの読書はとてもはかどる。なかなか読破できない硬めの本も読み終えることが出来た。長らく放置していた森達也さんの「A3」を読むことが出来たのは間違いなく3人のおかげである。
私だって多少なりともこの三人と仲良くなりたいとは思う。しかしこの濃密さの中ではちょうどいい立ち位置を見つけるのが難しいのだ。近づきたいのと離れたいのと、両方の気持ちで絶えずどうして外来通院で薬の調整ができないのかよくわからないのだが、とにかく主治医はそのつもりらしい。あまり先のことは考えないで、焦らず過ごすことを心がけるしかない。
焦らず過ごすには話し相手が必要だということを前回の入院で学習した。前回の私は誰とも話さずに時間を過ごした。本当は文章を書いたり手芸をして過ごしたいのだが、PCも針のたぐいも持ち込みはできない。本を読むかiPhoneで音楽やラジオを聞いたり動画を見たりするくらいしかできることがない。落語やら深夜ラジオの録音音源などはたっぷりiPhoneに詰め込んであったし、見たい動画だって読みたい本だってたくさんあるのだからそれで十分時間は潰せると思ったのだが、ひとりで集中するのには限界があった。早く退院したいという気持ちの焦りが集中を妨げる。そういう気持ちを紛らすのには人に話して共感してもらうのが一番だ。
私は思いきって誰かに話しかけて友達になってみようと思った。そうしてマリコ、ヨシオカさん、タニザキさんの座っているテーブルの空いたところに「ここ、いいですか?」と座ってみたのだった。
ヨシオカさんのことは2回目の入院の時から知っていた。服装がとにかく目立っていたのだ。全身ヒョウ柄、上下ともヒョウ柄はもちろん、アウターもインナーも髪飾りも手帳もヒョウ柄ときている。心の中で密かに「女豹さん」と呼んでいた。誰とでも気さくに話している様子も見ていたので、この人なら受け入れてくれそうだと思ってこのテーブルを選んだのだ。三人は快く私を受け入れてくれた。
いざ仲間になってみると、この3人はかなり親密なつきあいをしていて少々戸惑った。ほとんど全ての空き時間を同じテーブルで過ごし、他愛のない話から込み入った話まで何でも話す。笑いもあれば涙もある。そこまでのつきあいを求めていたわけでないので困ったことになったとおもったが、既にできあがった3人の関係の片隅においてもらうことが出来たので、案外気は楽だった。同じテーブルにいながら本を持って行って読んでいることもある。聞くともなしに話を聞いて入りたいときに入る。そういう関わりが嫌ではないかと聞いたが全くかまわないとの返事だったので、遠慮なく好きなようにさせてもらっている。
お喋りの小休止を取りながらの読書はとてもはかどる。なかなか読破できない硬めの本も読み終えることが出来た。長らく放置していた森達也さんの「A3」を読むことが出来たのは間違いなく3人のおかげである。
私だって多少なりともこの三人と仲良くなりたいとは思う。しかしこの濃密さの中ではちょうどいい立ち位置を見つけるのが難しいのだ。近づきたいのと離れたいのと、両方の気持ちで絶えず私は揺れ動いている。