アメリカン・スクール
- 作者: 小島信夫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1967/06/27
- メディア: 文庫
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本屋で「残光」というエッセイを見かけ、表紙とタイトルに惹かれて読んでみたのだけど、一冊も読んだことのない作家の、90歳を過ぎてからのエッセイというのはあまりにも固有名詞がわからなくて散文的すぎて、とてもついていくことができなかった。そこでまずは小説を読むことから始めようと思った。図書館のサイトで検索してたまたま見つけたのがこの本だった。
どの物語に出てくる登場人物も何かもの悲しい。とくに主人公はただもの悲しいだけでなく、進んで「よりもの悲しくなる」選択肢をわざわざ選んでいるように思える。サスペンスドラマで崖の上に逃げる人を見るときのように「あーっ、だからそっちいっちゃだめだって!」という気分にさせられる。「異邦人」ほど大きな事件は起こさないけど、その行動はどことなく不条理だ。「星」の主人公が上官と自分の服を取り替えるのも「アメリカンスクール」の主人公がそんなことしたって絶対追い込まれるだけなのに部屋から逃げ出すのも「なぜかわからないけどそうしてしまう」のだ。
普通の人は、もの悲しい状態をなんとか回避するべくいろんなことを我慢したり、「普通に」振る舞ったりするのではないだろうか。しかし小島信夫の描く主人公はそれをしない。その場の感情のままにいろんなことをして、さらなる失敗を招いてしまう。痛々しいほどに素直だ。
息子との関係を描いた「微笑」は、読んでいる方がつらくなるほどに率直に息子への嫌悪感が描かれている。どこまでも素直な感情表現を、どこまでも素直に文章にしている。この本を読む前に知人から、小島信夫は私小説の人なのだと聞いた。これが私小説なのだとすれば、小説とはここまで自分をさらけだすものなのかと恐ろしくもなる。
有名な作品は他にもいろいろあるらしいから、これから読んでいこうと思う。