この人の閾

この人の閾 (新潮文庫)

この人の閾 (新潮文庫)

3〜4年前に買ったような・・・

人と会話するとき、私たちは相手の言った言葉や口調、表情などから相手の考えについていろんな可能性を頭に浮かべながら会話を進める。会話の流れによって最初の判断を修正したり、書き換えたりもする。

主人公が会話しながら考えるいろんなことの中には、そういういろんな可能性が絞り込まれないままふわふわと漂っていて、そういう会話のしかたはリアルなような気もするし、あまりにもふわふわしすぎのような気もする。相手の意見を断じるようなことはほとんどない(そういう相手の物言いは「何でもかんでも十把一絡げにして雑に結論づけてしまう」と主人公をがっかりさせる)から会話の中に劇的なことは何も起こらない。流れるように会話はすすみ、そのまま何となく物語は終わる。退屈だと感じる人もいるかもしれない。でもそれは、喫茶店かどこかで他人の会話をぼんやりと聞いているような心地よさがある。

この本以降保坂和志は何冊も読んだので、もう文体に慣れてしまって、今読んでもさほど違和感はないのだが、最初は「こんなに主人公がうだうだと理屈をこねながら進む小説があるのか」と驚いた記憶がある。