ジェントルマン/山田詠美

この人の性描写って独特だ。何気ない描写の中に性的なものが常に漂っていて、性行為が特殊なものじゃなく、ごく自然な流れの中で描かれる。 「感じのよさ」に含まれる「胡散臭さ」を描く目線は昔から変わらない。中学生の時に読んだ「放課後の音符」を思い出す。同年代の集団からいい意味で浮き上がる、どこか達観した男子の魅力を描かせたらこの人は天下一品だ。主人公を含め周りの人間が、その魅力の虜になるのも無理はないという気持ちにさせられてしまう。そんな男子が男となる。男の裏も表も清濁合わせ飲める者が主人公でありそれゆえに男は心を許す。特別な人の「特別」になるのが主人公であるのだが、その「特別」さは恋とは少し違っているようだ。主人公が男に恋い焦がれて彼を求めても、彼は傲慢さとも言える余裕を持っており、主人公を慈しみながらも冷ややかな部分を崩さない。友情や弟に対するような親愛の情も主人公を揺らす要素としてあるが、この物語はやはり一つの愛に貫かれている。最終的に主人公が選び取ったのはそんな愛であり、哀しみである。愛する彼を犯した罪も含めて守り抜こうとした主人公を悲劇が襲う。胸がきゅうっと締め付けられるような切ない読後感の残る物語。