最初で最後のラブレター

ラブレターというものをもらったことが、一度だけある。
自動車学校の待合室でのことだ。
その日は仮免の実技の試験の日だった。それまでに3度仮免の試験に落ちていた私は「仮免さえ取れないなんてもう私は人としてダメだ、ダメ人間だ」というどん底の気分で順番を待っていた。そんな私の向かいに座っていた男の子が、突然ノートの切れ端を渡してきたのだ。
その紙には「君の優しい瞳にほれてしまいました」「興味がなければ返事はいりません」「よろしければ返事をください」と言ったことが書いてあった。
なんでよりにもよってこんな時にこんなものをもらわねばならないのか。どん底の私の瞳はそんなに優しいのか、そんな気の抜けた顔をしているから試験に3回も落ちたのかもしれない。その人も試験の順番待ちをしていたのだと思うのだが、ラブレターなんぞ書いてる場合かと言いたい。それに興味がなければ返事はいらないと言われたって、それじゃこっちだって居心地が悪いのである。仕方なく私もノートを破いて「私には付き合っている人がいるのです。今日は仮免ですか?お互いがんばりましょうね」と書いて渡し、早々にその場所を立ち去った。
建物の外に出てしまうわけにもいかず所在なくその辺をうろうろしているうちに試験の順番が来たのか相手の人はいなくなっていた。やれやれである。おかげで試験どころではなくなってしまった。しかしこのとき私は奇跡的に試験に合格したのである。思いがけない事態のおかげで適度に緊張が抜けたのか、あのラブレターの御利益だったのか。失恋したばかりの彼は試験に合格できたのであろうか。
それにしても仮免の試験に3回も落ちるってあまりないことらしいですね。これからもおとなしくペーパードライバーでいようと思います。