仲良くしなければならないのだ

入院していると、生活のほとんどを支えてくれているのは看護師さんであるということをしみじみ感じる。採血や薬の管理から食事の配膳やらリネン交換やら患者の私物の管理やら、看護師さん(正確には看護師・准看護師・看護助手と職種があって、受け持つ仕事はそれぞれあるようなのだが、ナースステーションにいる人たちという意味で看護師さんと呼ばせていただく)の仕事は実に多岐にわたる。もちろん食事を作ってくれる人とか、掃除をしてくれる人とか他にも沢山の人が支えてくれているのだけど、そういう人とは会っても挨拶程度だし、主治医とだって話すのはせいぜい週に1〜2回、患者が直接接するのはほぼ看護師さんだ。
つまり、看護師さんと仲良くなれるかどうかによって、入院生活が快適なものになるかどうかが決まると言っても過言ではない。仕方がないので無愛想な私もできるだけ看護師さんと会話をするように心がけている。
白衣の天使などと呼ばれる看護師さんだけど、やはり人間なのでいろいろなタイプの人がいる。優しいけれどどこかビジネスライクな人、怖そうだけど世話好きな人、無駄なことは一切言わない人、世間話ににこやかに付き合ってくれる人などなど。こちらがびっくりするほど患者さんにたいしてきつい怒りかたをする人もいて、あんな風に怒られないように気をつけようと思うばかりである。出来る限り仲良くなって、にこやかに応対してもらえるようになりたいではないか。
しかし沢山の看護師さんの中には「普段だったら絶対こういう人とは仲良くはならないし、世間話もしないで済まそうとするだろうな」という人も存在する。要するに「合わない」人である。
たとえば入浴時、脱衣所での看護師さんとの会話。
「ショウコさんは何歳なの?」
「35です」
「じゃあまだまだ若いねえ」
「ヤマダさん(仮名)はおいくつなんですか?」
「えー、いくつに見えるぅ?」
私は自分の年齢を隠す人があまり好きではない。予想するのがめんどくさいのもあるが、自分の年齢くらい胸を張って言えばいいではないかと思うのだ。飲み会なんかでこういう人がいたら、それ以降出来るだけ話さないようにする程度に苦手なタイプ。しかし相手は看護師さんである。失礼なことを言えばお風呂の時間を私だけ短くされたり、シャンプーとコンディショナーの中身をすり替えられたり、タオルを隠されたりするに違いない。ここはがんばって相手の機嫌を良くする言葉を探さねばならないのだ。
「ヤマダさんは年齢不詳っぽいですねー」
「そう?いくつだと思う?(若く見られる気まんまん)」
この場で最も無難だと思われる答え「年齢不詳」だけでは彼女は満足してくれなかった。となるとやはり具体的な数字を言わねばならない。
「38…くらいですか?」
心中では45歳くらいという読みである。ところがヤマダさん(仮名)ときたら
「ま、そういうことにしといて」
結局真相は教えてくれないのである。私が賭けに出たのにひどすぎる。イヤンなんて意地悪なのヤマダさん(仮名)。と思わなくはないが「そういうことにしといて」ということは「そういうことにしといてもいい」答えであったということだろうと自分を納得させる。そういうことにしといて欲しくない答えだったとしてもそうは言わないに決まっているのだが、ヤマダさん(仮名)が教えてくれるつもりがないのでは仕方ない。その後しばらくやけに話しかけて来ることが多くなったところを見ると、たぶん許容範囲の答えだったのだろう。
こういう会話をするのは非常に疲れる。でも入浴の管理の他にもお茶やおやつを配ってくれたり、シーツを交換してくれたりと生活のほぼ全てをゆだねている人をあからさまに避けるわけにもいかない。嫌われたら何があるかわからないのである。もうこんな心労から解放されたい。忍耐の日々は続く。