ラットマン

ミステリーを読みなれない私は、ミステリーというとだいたい物語の終盤で右を見ろと言われて見たら今度は左、かと思えば今度は上へ、そうじゃない後ろだ前だとあっちこっちに頭を振られて目が回っちゃって、結末が近くなる頃にはなんかもうどういう終わり方でもいいよという気がしてしまうことさえある。この小説も例外ではなく、かなり頭を振り回されたのだが、最後まで路頭に迷わずに済んだのは、この物語には必ず救いがあるはずだという確信のようなものがあったからかもしれない。一人一人の登場人物を描き出す誠実な文体がそう思わせたのだろうか。
物語の展開の巧みさに加えて、心に残る比喩や描写がいくつもある、きれいな文章だと思った。直木賞作家に今更抱く感想じゃないかもしれないけど。