蝶のゆくえ

蝶のゆくえ (集英社文庫 は 12-5)

蝶のゆくえ (集英社文庫 は 12-5)

爆笑問題の太田さんがラジオでこれはすごいと言っていたので興味はあったんだけど、中学生くらいの時には橋本治にあまりいい印象を抱かなかったので、手に取る気になれずにいた。たまたま立ち読みした斉藤環の本でも取り上げられていたので読んでみることにしたんだけど、これが確かにすごかった。

どんなにあり得ないと思うような物語でも力量さえあればリアリティは出せるんじゃないかと思わされる。かっとするとか、わっと泣くとかっていう情動の上がり下がりをほとんど描かずに、状況判断だけを克明に描いて物語が進む。不条理さ、かっとなって変なことをした、というのが全然なくて、全ては普通の判断の結果の「必然」として起こる。その視線の冷徹さ。いわゆる「信じられない」ことをしているのに、そうだね、そういう判断有りだよねと読み手に思わせる。太田さんの言う「殺人は他人事ではなく、自分もそれを犯す可能性を持っている」(というようなこと)がこの物語には明示されている。ワイドショーの言う「心の闇」というやつは、この物語では闇ではない。